キラからのプレゼント
「マリュー先生。少し早いですけど、よいクリスマスを」
国語準備室を訪ねてきたキラは、モミの木が描かれたカードをマリューに差し出した。
「まあ、ありがとう、キラくん」
体育祭以来、キラは週に一二度学校に来るようになった。生徒会の手伝いをしたりもして、友人たちともいい関係を築いている。
が、今はマリューは空き時間だが、キラは本来六時間目の授業中。登校してくれるだけで嬉しいマリューは、些細なことにはこだわらず、キラも気にせず、椅子を勧められて、素直に座ったりしている。
「ぼく、留学しようかと思ってるんです」
「留学?」
「せっかく力を持っているなら、使わなくちゃいけないんだろうなって」
「そう…でも、使うも使わないも、あなたの自由なのよ?」
マリューのいたわりに、キラは微笑んだ。
「アスランくんにはもうそのことを…?」
「はい。俺も留学しようかな、なんて言ってました」
アスランは相変わらずだ。
「キラくんがいなくなっちゃったら、寂しくなるわね…」
マリューはふっと遠い目をする。
「実はね、私も来年は大学に戻ろうかと思っているの」
「え?」
「ハルバートン先生の要請でAA学園に来たのだけど、理事長が変わって前のような対立もなくなったし、私の役目ももう終わったかなあって」
キラはなにか言いたげに瞳を動かした。
ドミニオンからの三人組や、生徒会のメンバーや、マリュー先生を慕っている生徒はたくさんいる。だがそんなことは承知で、マリューは学校を去ろうと考えているのだろう。だとしたら、キラがなにか言うことではない。
でも、ひとつだけ。
「フラガ先生はそのこと、知ってるんですか?」
「え?」
今度はマリューが驚いた。
「前に先生のいたAA学園の研究室って、すごく遠いところですよね。戻るとなったら、引っ越しちゃうんですか?」
「ええ、でもまだ考えているところだから。キラくん。この話はまだ内緒ね? ちゃんと決めてからフラガ先生にはお話するから」
「はい」
キラはにっこり笑った。
「なんだとっ? 大学に戻るだーっ?」
六時間目終了のチャイムと同時に、国語準備室を辞したキラは、その足でグラウンドに向かい、授業を終えたフラガを呼び止めた。
「はい。ぼく、この耳でしっかり聞きました」
マリューと約束したときと同じ、目一杯の笑顔のキラ。
「なんでそんな大事なこと、おまえに話すんだよっ!」
「気軽だからじゃないですか? フラガ先生に話したら、なんか重くなっちゃうじゃないですか。黙っててくださいって言われたんですけど、それじゃあ先生、困りますよね?」
フラガは黙って、キラの頭を撫でた。
「頑張ってくださいね。でないとぼくがもうちょっと大人になったら、マリュー先生狙っちゃいますよっ、とと」
フラガの腕がキラの首にまわって、本気の力が込められる。
「やめてくださいってば、冗談ですよ!」
「おまえ、頭いいのに、俺にそのテの冗談は通じないって、なんで覚えられないのかなあ」
げほげほ咳き込みながら、キラはセーターの襟元を直した。
「この情報が、ぼくから先生へのクリスマスプレゼントです」
「そりゃ、どうも。で、おまえは誰とクリスマスを過ごすわけ」
キラは可愛らしく笑う。
「昼間はフレイと買い物に。夜はラクスがこっちに来るそうなので、うちで夕食を一緒にいただく予定です」
フレイとはよりが戻り、さらに文通相手のラクス・クラインと二股らしい。
「若いね、おまえ」
「そのうち刺されちゃったりするかも、ですね」
フラガは他人の人生に口は挟まない。キラは自分がしていることを理解しているので、尚更だ。
「ま、頑張れ」
「先生も。マリュー先生と幸せな新年をお迎えください」
「うっせーんだよ」
今年はもう登校してくるつもりのないらしいキラを、フラガは見送った。
マリューが大学に戻るなんて、青天の霹靂。毎日顔を合わせているし、話も結構しているのに、そんなことまったく聞いていない。フラガは水飲み場にもたれて、地面を蹴った。
「ああ、もう。厄介な女だな!」
でも惚れてるんだから仕方ありません。