ここではみんな誰かの親
一年生のときの綾薙祭は台風と重なっていた。
星谷悠太の両親はこんな悪天候でも屋外の演目をするのかなと思いながら息子の通う学校に赴き、案の定中止のアナウンスを聞いてどうしよう帰ろうかと話していたところに、突然全校放送で息子が綾薙の志望動機である憧れの高校生の話をするのを聞くこととなった。
そのすぐあと、人の流れに沿って辿り着いた先で、歌って踊る息子を初めて見た。
翌年の夏休み、卒業記念公演の稽古だとかでずっと寮にいた息子が突然帰ってきて、「オレ、出るから見にきて」とチケットを二枚置いてすぐ帰った。
「出るって、通行人とかかな」
「まさか馬の足ってことはないだろうけど」
ははは、と笑いながらやってきた綾薙ホール入口で渡されたパンフレットを開いて、両親は目を疑った。
そこには息子の名前が一番に載っていた。
「えっ、だって卒業生の為の公演なんでしょ? なんで悠太が」
思わず大きな声を出した母親に、あのー、と声をかける女性がいた。
「今年の主演をやるはずだった卒業生がブロードウェイの舞台に出ることになったので、代わりに星谷くんが選ばれたそうですよ」
と、教えてくれ、
「申し遅れました。私、那雪透の母です。こちらは父です」
と、紹介された隣の温厚そうな男性が微笑んだ。
「あっ! 悠太のルームメイトの那雪くん! 悠太がいつもお世話になってます!」
いえいえこちらこそ、と頭を下げ合っていると、
「あの、もしかして」
ふわりといい香りが広がって、よく通る声が二組の親たちにかけられた。
「team鳳のメンバーのご家族のかたでいらっしゃいます?」
すっと下げられたサングラスの下から現れる、誰もが知っている女優の顔。
「わたくし、月皇海斗の母でございます」
いろんな意味で、おお、と星谷夫妻と那雪夫妻は高揚した。
再びお世話になってますの声が交差するなか、
「team鳳って、ほら、あんたんとこ!」
近くにいた二人連れの女性の華やかなほうが、控えめなほうの腕を引っ張った。
「私、team柊の虎石和泉の母です。こっちはそちらのチームの空閑愁の母親」
「あっ、かっこいい空閑くんの!」
星谷の母親が息子から聞いているとおりの表現をして、どうもどうもと再び親たちは頭を下げ合う。
その光景をひとりの男性が見ていた。
天花寺翔の父親である歌舞伎役者は、自分も挨拶をすべきな気がするがどう声をかけるべきか悩んでいたが、ほどなく面識のある月皇海斗の母親に見つけられことなきを得た。