星谷くん誕生日おめでとう2
「星谷くん、休憩終わるよ」
主演俳優に声をかけられて、星谷は携帯端末を慌てて鞄に入れた。
「なになにー? 珍しいじゃん、ずっと端末見てるの。大事な人からー?」
からかわれて説明する。
「オレ、今日誕生日で」
「え、そうなの? おめでとう」
「ありがとうございます。それで友達からのメッセージを読んでたんです」
「やっぱ大事な人じゃん」
えへへ、と星谷は稽古場の廊下を歩きながら笑った。
「寮生時代に誕生日パーティをやってて、それからさすがに今ではパーティは無理ですけど、みんなメッセージはくれるんです」
大事な人、の意味がずれていることに気づいた相手は不思議そうな顔をした。
「綾薙、だよね、君も」
「はい!」
嬉しそうに星谷は返事した。
「まじかー! 俺、年イチも同窓生と連絡取らないわ」
「そうなんですか?」
「まあ、星谷くんが卒業したのなんかつい最近か。いや、それでも君たち、仲いいんだね」
「はい! みんなすごくいい奴です!」
綾薙の後輩だからというわけではないだろうが、年上の主演はまだ駆け出しの星谷を随分気にかけてくれていた。
まいったな、とつぶやいて主演は稽古場のドアの前で足を止めた。
後輩がドアを開けないと、ということかと思った星谷は前に出てドアノブを掴もうとして制される。
「若干サプライズ味がなくなってしまった」
「え?」
「とはいえ、仕込みは上々だ。行くよ! 星谷くん!」
「え?」
と言う間に勢いよくドアが開けられた。
鳴り響くクラッカーの音。そして、
「ハッピーバースデー星谷くん!」
唱和したのは稽古場にずらりと並んだキャストとスタッフだった。
目を丸くする星谷の背中を主演が叩く。
「改めまして、誕生日おめでとう星谷くん。いやあ、不意打ち決めるつもりだったから、友達からのお祝いメッセージ読んでるって言われたときは、いらんこと聞いちゃったと思ったよ」
スタッフのひとりが年齢の数字の形をしたロウソクが立ったホールケーキを持ってきて、星谷はおっかなびっくり受け取った。
「あ、ありがとうございます。え、と、まさかお祝いしてもらえると思ってなくて」
役をもらってはいるが、それほど重要なものでもない。
「星谷くんがいると場が明るくなるんだよね。みんなそう思ってるから、日頃のお礼にって」
ケーキを渡してくれたスタッフが主演に視線をやり、主演は星谷にウインクした。
「いい舞台にしようね」
星谷は元気よく返事をした。
「はい!」