星谷くん誕生日おめでとう

 星谷を寮まで送っていったら、誕生日パーティの会場だった

 それぞれ別の場所にいた楪、漣、暁は鳳からの謎のメッセージを受け取った。
「なんだい、これは。また鳳くんの悪ふざけ…」
 かい? と言う前に暁の端末に電話がかかってきた。
「というわけだからさ、おまえたちもこっちに来ない?」

 暁が第一寮に行くと、寮の食堂が本当に星谷悠太の誕生日パーティ会場だった。
 楪がひらひらと手を振り、漣が小さく頷き、鳳がウインクし、暁の教え子たちが笑顔で走り寄ってきた。
「暁先輩! 来てくれたんですね!」
「すごいね。ここに何人いるんだい」
 二年MS組全員と、先輩たち四人だと教えられる。
「星谷くんと君たち、仲がいいんだね」
 まあ、普通に、と答えたあと、
「あいつ、というか、あいつら頑張ってるし、星谷の誕生日のお祝いというか、A班みんなを応援っていうか」
 そんな感じ? と顔を合わせて頷き合う。
「それはもしかして綾薙祭のステージのことかい?」
 暁たちが指名した現在の華桜会との対立を暁が承知していることに、教え子たちはほっとした顔をした。
「いきなりステージを奪うようなやり方もそうですけど、育成枠オーディションの結果をまるまる無視して、次期華桜会候補のお披露目って言われても」
「え?」
 暁が聞き返そうとしたところで、
「みんな、ちょっとごめんー」
 星谷の声が響いた。
「お菓子とジュース、持って行ってもらっていいかなー」
 入口付近にいる一年生らしきふたりと一緒に立っている。
「いいぞー」
「持ってけー」
 あちこちから諾の声が上がる。
 元team鳳のメンバーが世話を焼いているように見える彼らは、team四季のメンバーだという。
 最終ステージ前に二年生が一年生の候補生と親しくしすぎるのは問題があるかもしれないが、星谷たちならば許されるだろうと。
 この時期に指導者を失った者同士。という言い方に、彼らが昨年暁がどういう立場だったかすっかり忘れているか、既に遺恨はなくなったと考えているのがわかった。

「次期華桜会候補?」
 帰り道、鳳は暁が言った言葉をおうむ返しした。
「いや、知らない。それは星谷は言わなかった」
 暁は教え子たちから聞いた、オープニングセレモニーがそもそもteam柊が綾薙祭で次期華桜会として紹介される場であったことを、仲間たちに伝えた。
「オープニングセレモニーの目玉のひとつということか」
 暁は漣に頷いた。
「結局増えた出演者も候補ということになったようだけど」
「出演しない子たちは候補じゃないってことデースか?」
 四人はしばし無言で足を進めた。
「我々が口を出すことではないとはいえ、随分雑な話のように思えるな」
「二年生たちは、team柊が次の華桜会になることには異論はないそうだよ」
 三人は暁を見た。
「だが一色くんたちは、育成枠オーディションの結果がまったく考慮されていない点には納得がいかないと言っていた」
 今度は鳳に視線が集まり、鳳は肩をすくめた。
「あいつらはたぶん、そういうの気にしてないと思うよ?」
 暁が誰に向かってでもなく頷く。
「僕は教え子たちに訊ねたんだ。君たちもオープニングセレモニーに出たかったのかい?って。そしたらこう言ったよ。俺たちは俺たちのステージがありますって。最高のパフォーマンスを見せるから、絶対見に来てくださいって」
「いい子たちデース」
 言ったのは楪だが、みんなの気持ちだった。

 漣、楪に続いて暁がやってきて、 寮の食堂は一際賑やかになった。
「ごめんね、柊を呼んであげられなくて」
 鳳に話しかけられた辰己は少し驚いた顔をしたが、すぐにっこり笑った。
「ああ、いいえ。いくら鳳先輩でもそれは無理だとわかっています。それより先日は柊先輩の手紙を持って帰ってきてくださって、ありがとうございました」
 team柊のほかのメンバーも気づいて鳳に頭を下げた。
「あ、戌峰もちゃんと読んだんだ。読まずに食べないか柊が心配してたよ」
「うん! 食べちゃう前に卯川がちゃんと読んでくれたから大丈夫!」
 冗談のつもりだった鳳が面食らう。
「気にしないでください、鳳先輩。戌峰はこれが通常運転なんです」 
 鳳はなにか言いたいことがあるような気がしたが胸に収めた。
 入口にジャージ姿の一年生と思しきふたりを認めて、辰己が鳳に断りを入れてそちらに行った。
「あれはteam四季のメンバーですね。これから稽古に行くのでしょう」
 申渡がさりげなく鳳の隣に来て教えてくれる。
「team四季?」
「綾薙祭前に指導者の先輩がいなくなった者同士、星谷たちがいろいろ気にかけてあげてるんだよねー」
「あ、この馬鹿犬。鳳先輩の前でそれ言うやつがあるか」
 虎石が戌峰の口を手で塞ぎ、目の前だが鳳は聞こえなかったふりをして、星谷が一年生たちのところに来て、星谷先輩の誕生日会だって聞いて、おめでとうございます、などと言うのに耳を傾ける。
「みんな、ちょっとごめんー。お菓子とジュース、持って行ってもらっていいかなー」
 星谷が手を上げてみなの注目を集めているあいだに、那雪が手のついていないサンドウィッチやピザを容器に詰め、天花寺がペットボトルを何本もそのまま後輩に押しつけた。
 月皇と空閑も彼らに声をかけている。
 ああ、こいつらも今は誰かの「先輩」なんだな、と鳳は微笑んだ。

星谷悠太, 鳳樹

Posted by ありす南水