四捨五入したら三十なんですけど?
柊が後輩になにか頼むことがあり呼び出すときは必ず料亭だ。
帰る段になって足が痺れて畳に転がったことのある星谷は適度に足を崩しながら料理をいただいていた。
だが柊がなかなか要件を切り出さないので落ち着かなくなってきた。
「あのー。できればせっかくの料理をおいしくいただくために、話を先にしていただきたいのですが」
箸を置いて控えめにしかし率直に切り出した星谷に、柊も箸を置いた。
その隣には鳳がこちらはまったく意に介さないという「演技」で吸い物の碗で顔を隠している。
柊側に座っているということは、鳳は要件を知っているということだ。
「実は来年綾薙学園は創立百周年を迎えることになりました」
「ああ、はい。知っています。おめでとうございます」
「それを記念してテレビシリーズの枠を取りました」
「はあ」
「あこがれの高校生を追いかけて入学してきた音楽経験のない生徒が夢を掴む、という物語です」
「それって」
「そうです。君のことです。ドラマ化させてもらってもかまわないでしょうか」
「ああ、はい。ドラマになります?」
「多少の脚色は入りますが、大部分ドラマチックです。君の物語は」
「はあ。じゃあオレはかまいませんが。誰が演じるんですか?」
「君です」
星谷は目をぱちくりとさせた。
「オレ?」
「そうです。星谷悠太役、フィクションであることを強調するために役名は変えますが、は君に演じてもらいたいと思っています」
座卓に並んだ凝った料理の皿を順番に眺めたあと、星谷は口元に丸めた手をあて、言いにくそうに言った。
「あの、オレ、二七才なんですけど」
「知ってます」
「その役、高校一年生、ですよね?」
「そうです」
「無理、じゃないです?」
柊は咳払いした。
鳳が不自然に持ったままだった碗を置く。
しばらく待ったがふたりともなにも言わないので星谷は察した。
「もしかして、おふたりも本人役で出るんですか?」
柊がまた咳払いして、鳳が観念したように姿勢を正した。
「星谷。俺たち、今年いくつになると思う?」
ふたりは星谷より二学年上だ。