【少佐が恋人ができたことを三幹部に宣言したときの話】

真木たち三人が打ち合わせしている部屋。

「ヒノミヤと付き合うことにしたから」

 兵部が入ってきていきなり言った。

 打ち合わせ時間は伝えていたが、勝手に留守にして戻ってこないので、いつものことなので勝手に進めて終わりかけた頃だった。

「はあ、そうですか」

 真木が渋くていい声で、さして感心なさそうに答えた。

「少佐ったら、言ってくれるならもっと早くにしてよ。内緒にしてるのかと思ってたじゃない」

 紅葉の言葉に兵部は首を傾げた。
「もっと早く、は無理かな。
 三日前に決めたから」
兵部が留守にしていたのはきっちり三日間だ。

「え! 少佐ったら、付き合ってないのに、ヒノミヤと会ってたの?」

「…? 付き合うことにしたから会ってたんだけど」

「え? え? どういうこと? 少佐、ずっと外でヒノミヤと会ってたわよね!」

「ずっと? いや、一ヶ月くらい前、偶然会っただけ」

「え? 嘘! 少佐、私たちに黙ってヒノミヤと会ってたでしょ!」

「どうしておまえたちに黙って会わないといけないんだ」

 兵部が呆れたように言うと、立ち上がりかけていた紅葉が我に返った。

「それもそうね…」

 すとんと椅子にお尻を戻す。

「なんだ、お前たち、僕とヒノミヤが付き合ってると思ってたのか?」

 腰に手を当てて、兵部が咎めるように言う。

「そりゃあ思いますよ。あいつが船に来るのはいつも少佐がいないときだし、それを特に気にしてるふうでもないし、これは外で会っているんだなと」

 真木が言う。

「なんでそれが付き合ってることになるんだ」

「いや、まあ、そこはなんとなく」

「ねえ、なんとなく」

 真木と紅葉が顔を見合わせる。

「腑に落ちんがまあいい。とにかくそういうことにしたから。だからといって別にあいつのこと特別扱いしなくていいから。じゃあな」

 と、兵部は打ち合わせに参加することもなく出て行った。

「どう思う? 真木ちゃん」

「別に嘘をつく必要もないだろうから、そうなんだろう」

「えー、付き合ってなかったんだあ」

「これから付き合うなら、そう変わりはない」

 などと真木と紅葉が話しているあいだに、葉は端末を取り出して操作していた。

「ちょっと、葉、あんたなにやって」

「おいこら、ヒノミヤ! 今すぐこっち来い! ああ? 仕事だ? うっせーんだよ! 来いった来い!」

 真木と紅葉は顔を見合わせ、同時に頭を振った。真木が立ち上がり、葉から端末を取り上げる。

「ああ、ヒノミヤか。少佐から聞いた。また時間があるときに来てくれ。ああ、ではな」
「真木さん!」

 勝手に通話を切ったことに、葉が抗議する。

「あんた、なにしてんのよ。少佐に怒られるわよ」

「真木さんも紅葉姐もなに落ち着いてんだよ! ジジイが! ヒノミヤと!付き合うとか!なんの冗談!」

 三たび、真木と紅葉は顔を見合わせた。

「もしかして、葉。あんた、気づいてなかった?」

「なにに!」

「なにって言われると困るんだけど、そういう空気?」

「空気ってなに!」

 真木と紅葉は顔を見合わせた。四回目。

「なにと言われてもな」

 困ったように真木に言われては、葉も言い募れない。

「嘘だろ。俺だけかよ。なんにも知らなかったの」

「まあ、それは勘違いだったわけだけどね」

「ヒノミヤが、ジジイと」

「なに、あんた、ヒノミヤに気があったの?」

「ねえよ!」

 じゃあ少佐に、とは紅葉は言わなかった。

 少佐は不思議な人で、親で友達で大切な存在だ。

アン兵

Posted by ありす南水