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合衆国某所。
人混みのなかを歩いていると、急に隣に気配を感じた。
見ようとするより早く腕を組まれ、銀髪と学ランの肩がヒノミヤの視界に入った。
「久しぶりだな」
そうだ、本当に。
「元気そうでよかった」
「それは、俺の台詞だ」
微かに血の匂いがした。
「怪我してるのか」
「こっちを見るなよ。もしかしたら最後かもしれないのに、負傷した姿を記憶されたくないからな。なに、最後でなければ、次に会うときには完治している程度のものだ」
横を向きたい気持ちをヒノミヤは押さえ、代わりに手を強く握った。
兵部と付き合うということは、告白する前はかなり特殊なことだと思っていたが、実際はそんなことはなかった。会えない期間がときには長いが、遠距離恋愛だと思えばそんなものだ。会えば話をして笑って喧嘩したりもしてセックスして。
あえて兵部がそう仕向けてくれた。
だからここでヒノミヤが、余計な詮索をして台無しにはしない。通じ合っているはずの気持ち以外のものを、ふたりのあいだに介在させたくない。
兵部が、とん、と肩をぶつけてきた。
「もうすぐエスパーとノーマルのあいだで戦争が始まり、破滅の日を迎える」
予知だ。以前の兵部はパンドラがリードして戦争を起こし、勝とうと思っていたが、その後気が変わり、戦争そのものをなしにしようと試みたが、うまくいかなかった。
「だがバッドエンドだけはなんとしてもなくす」
知っている。兵部がそのときのために生きてきたことを、ヒノミヤは知っていた。
「俺に出来ることはないのか」
ここから先は高レベルエスパー同士の死闘だ。だが予想に反し、兵部は「あるよ」と答えた。
「ユウギリを頼む。あの子はもうエスパーとして一人前だが、守ってやってくれ。あと、君も死ぬなよ。能力は完全に戻ったようだが、ヘマするな」
心配されて、嬉しいような歯痒いような。
「予知でそういうこと教えてくれねえの?」
「それがさ。既に過去になった分も含めて、君の姿を予知で見たことがないんだよね。桃太郎がクィーンと一緒にいるのは見たことあるんだけど」
「なんだそりゃ。小動物以下か、俺は」
ふふ、と兵部が笑う。
「そこは嘘でもそんなことないって言えよ」
兵部の人差し指が、つないだままのヒノミヤの手を弾いた。
「君はね、おそらく、本来僕に接触しない存在だ」
「なにかの間違いってか」
手に力を込めた。兵部は多分痛いだろう。
「ラッキーアイテム」
「は?」
「君の存在は僕にとって幸運の一手さ。だから僕は悲願を果たすだろう。そしてそのあと生きていたら、残りの命は君にあげる。アンディ」
滅多に呼ばれないファーストネームに、思わず顔を見ようとすると、てのひらで目を覆われ、キスで口を塞がれた。
後ろから来たビジネスマンにぶつかられ、気づくと、ヒノミヤはひとり人混みのなかに立ち尽くしていた。