私の一番星
私の初恋は小学校四年のとき。
運動会のリレーで、半周遅れをひとりで挽回してテープを切ってゴールした星谷くんを好きになった。
星谷くんは運動神経は抜群によかったけれど、そのほかは目立たない男の子だった。
好きな男の子の名前を言い合った修学旅行の夜も、星谷くんの名前を挙げる子はいなかった。私も恥ずかしかったから黙っていた。
地域の中学に上がって、星谷くんはいろんな運動部をかけもちして助っ人として活躍するようになった。いつも男の子の友達に囲まれて笑っていた。
星谷くんはどこの高校に行くのかな。
同じ学校に行きたいな。
そう思っていたけれど、彼が進学したのは私立の音楽学校、うちの中学からそこに行くのは星谷くんが初めてということだった。
卒業式の日、学生服のボタンをもらいに行く勇気は私にはなかった。
綾薙学園の学祭に行かない?
高校一年の秋、クラスメイトに誘われた。
彼女は歌舞伎役者の天花寺翔のファンで、学祭のときだけ一般の人も入れる彼が通っている学校に行きたい、あわよくば本物の彼を見たい、ということだった。
星谷くんが行った学校だ。
もしかして会えたりするだろうか。中学では一度も同じクラスにならなかった私のことを、星谷くんは覚えていないだろうけれど。
そして私は星谷くんのステージを見た。
台風で雨が降って風が吹いて、私もクラスメイトもずぶ濡れだったけれど、プログラムに載っていなかったゲリラ公演に遭遇して、そこに星谷くんがいた。
それから私は綾薙学園について調べた。
学祭での星谷くんのパフォーマンスはミュージカル学科に上がるためのテストステージ。
もし星谷くんがテストに合格していたら、二年生の夏休みに卒業生と一緒にミュージカルの舞台に立つ。かもしれない。
二十五名のなかから二年生で舞台に立つのはたった五名。もし星谷くんが出なかったとしても、舞台裏にはいるはずだ。
チケットは一般にも販売されるけれど、知る人ぞ知るレアな舞台で倍率は高い。
卒業記念公演の情報が更新されていないか、寝る前に綾薙学園のサイトを確認するのが、私の日課になった。
卒業生以外の出演者が決まらないうちにチケットの販売が始まり、祈るような気持ちで応募した私は当選した。
ひとりなので緊張しながら、学校内の演劇ホールで主演として舞台に立つ星谷くんを見た。
主演? 降板した卒業生の代わりだって。
すごいすごいすごい!
星谷くん、ずっと出ている!
キラキラしている!
かっこいい!
それからそれから! ミュージカルって楽しい!
私は決めた。
星谷くんがこの道を進むなら、これからも追いかけよう。
私の初恋は叶わなかったけど、空に上って星になった。
ずっとずっと見上げていられる。
星谷くんは私の一番星。