ここにいるよ

 駅のホームで気持ちを確認した星谷と鳳は、そのままどこに寄ることもなく鳳のマンションへ向かった。
 そして翌朝。時間的には、ほとんど昼。
「すすすすみませーんーっ!」
 ベッドから飛び降りて、星谷は土下座していた。
 鳳のからだには星谷がつけた跡がいくつも散っている。
「とりあえずパンツくらい履いたら? 笑っちゃいそうだから」
 星谷が下着を身に着けているあいだに、鳳は見えるところに跡がないかを確認した。
「このへん、大丈夫だよね?」
 髪をかき分けた首筋を見せられた星谷が、ベッドに片足を乗り上げ唇を押し当てた。
「こら」
「先輩、わざとやってますよね」
「まあね」
「見えるとこにはつけてないです。よかった、そのくらいのことは考えてた、オレ」
 鳳は星谷に抱きついた。
「わっ!」
 抵抗する暇を与えず、星谷の首筋に噛みつくようにキスする。
「えええええーっ!」
 星谷はバタバタと暴れて鳳を引き離し、唇が触れていた場所に手をあてた。
「見えるとこじゃないですかーっ!」
 鳳はウインクする。
「所有欲ならこのくらいやらないと」
 星谷はぽかんとした表情になったあと、そろそろと鳳に近づいて自分が跡をつけた胸のあたりに触れた。
「所有欲。そっか。これ、所有欲なんだ」
 星谷は顔を上げて、鳳と目を合わせた。
「オレ、今先輩の一番近くにいます」
「うん」
「でもオレ、たぶん、この向こうにいたいんです」
 星谷の手は鳳の左胸のあたりに置かれたままだ。
 鳳は赤くなっていく顔を背けた。
 そして、小さな声で言った。

 とっくにいるよ。

星鳳 La Vie en rose

Posted by ありす南水