ボーイズトーク
友人たちと集まって、最後に星谷と虎石が残った。
「時間あんなら、あと一杯だけ飲んでかね?」
「いいよ」
という流れで、ふたりで虎石の馴染みの店に入った。
「星谷おまえ、相変わらず童顔なのに酒強いんだな」
「童顔?」
「あ、わりぃ。ベビーフェイス」
「いいけど。同じ意味だよね。虎石も強いよね。オレは今日、結構酔ってるよ」
星谷のグラスには、虎石がキープしているバーボンのロックが満たされている。
「酔っ払いだから聞くけど。虎石、今でも知りたい?」
「なにを」
「オレと先輩がどっちがどっちっていうの。昔、聞いただろ?」
あー、それな、と虎石は頭を掻いた。
「なんとなくわかったから、いーわ」
「そうなんだ? ふうん。でもそれ、合ってるかなあ」
いたずらっ子のような星谷の表情に、虎石は鼻白む。
「おまえ、鳳先輩に似てきたな」
「ほんと?」
「喜ぶな」
虎石は自分のグラスに酒を足した。
「オレがー、今知りたいのはー、そんだけ鳳先輩が好きでー心配じゃねー? って、ことかな」
「なにを?」
「浮気」
星谷は笑った。
「それって心配しても仕方ないことだよね」
「おまえは? 出来心とかはねえの」
「オレって不誠実な人間なんだよ」
「はあ?」
「虎石みたいにみんなを愛せないってこと」
「ああ? 馬鹿にしてんのか」
「違うよ。世界中の女の人とセックスしたい人って結構いるけど、女の人なら全員愛せるって人、オレ、虎石以外に会ったことない。虎石、すごいよ」
「おお。そりゃどうも」
「でも、オレは無理」
「まあ、そうだろうな」
「だから取り返しのつかないことになる前に、すごく注意してる」
「なるほど」
虎石はグラスを持ち上げて、テーブルに置かれた星谷のグラスにかちんとぶつけた。
「ご結婚おめでとうございます」
「え、このタイミング?」
「なんかみんな当たり前って感じでなんも言ってなくね?」
「オレも先輩もほとんど日本にいないしね」
「どんなもんなんだ。結婚てのは」
「変わらないよ。一緒に暮らしてないし」
「一緒に住む予定はねえの?」
「今のとこないかなあ。あ、でも先輩は近々拠点をこっちに移すよ」
「そうなのか?」
「結婚のことで本家の人と話し合ってるときに、そろそろ柊先輩の補佐的な仕事もする頃合いじゃないかって話になったみたいで」
「向いてなさそー」
星谷は笑いながら頷いた。
「おまえは帰ってこねえの? こっちの舞台には興味なし?」
「そんなことはないよ。最近は母語について考える」
「日本語じゃねえと気持ちの入り方が違ったりするのか?」
「je’ t’aime Ituki って言うのと、愛してます鳳先輩、って言うのと、気持ちに近いのはやっぱり愛してますのほうだよね」
照明を落とした店内だが、虎石はまじまじと星谷の顔を見た。
「愁が、星谷は真顔でのろけるって言ってたの、これか」
「のろけてないよ?」
「いやいや、今のがのろけじゃなかったらこの世にのろけはねーわ」
星谷は納得いかないふうに首をひねった。
男同士の話はそのあともだらだらと続き、ふたりは夜が明ける頃それぞれ帰路についた。