2月のチョコレートパフェ
二月の終わりの週末、鳳は偶然駅で星谷と会った。
「おーとりせんぱーい」
大きな紙袋を振り回して、星谷は駆け寄ってきた。
「わー。どうしてここにいるんですか? オレは実家の帰りなんですけど」
「駅ビルでやってる写真展を見た帰りだよ」
「途中まで一緒できます?」
できるよ、と笑うと星谷は飛び跳ねた。
歩きながら話をする。
「実家に泊まってきたの?」
「いえ、チョコレートを取りに寄っただけです」
チョコレート? と首を傾げる鳳に、星谷は紙袋を少し持ち上げた。
「中学のときの同級生とか後輩が、家まで届けてくれたみたいで」
「卒業して二年も経っているのに?」
「ねー、義理堅いですよね、みんな」
「義理…? 義理なの? それ」
星谷が不思議そうな顔で見返してくるので、鳳はそれ以上言うのをやめた。
那雪から、星谷は中学時代たぶんものすごくモテていたがまったく無自覚だ、と聞いたことがあったが、こういうことかと思う。
「どうするの、それ」
「来月お返しはちゃんとしますけど、チョコレートは寮でみんなと食べます。先輩もどれか持ってきます?」
「遠慮しとく」
「あ、先輩もいっぱいもらってますね!」
「そういうことじゃなくて」
星谷はおおらかだが無神経ではない。だからこれは無自覚ではなくて、無関心なのだと鳳は気づく。
鳳の知る星谷は誰に対しても「好き」を口にする人間だが、それは綾薙が星谷にとって夢の実現の舞台であるからで、要するに星谷が好きなのは才能なのだ。
鳳にも同じようなところがあるし、芸事の道を進む者は多少の差はあれ皆そうだ。
「先輩?」
「うん。星谷。チョコレートパフェ、食べに行かない?」
突然の提案に、へ? と気の抜けた声が返ってきた。
「これから、ですか?」
誘うなら夕食にしてもいいくらいの時間だ。
「そう。これから、俺と」
にっこり笑いかけると、条件反射のように星谷も笑った。
「いいですね! 行きます!」
この好意は誰もが得られるものではない。
星谷にチョコレートを贈った女の子たちに、ごめんね、と心のうちで手を合わせるが、それは罪悪感ではなく優越感だった。