歌って踊る会

 ドレスコードは歌って踊れる格好
 綾薙を卒業した次の春、鳳は元教え子たちと野外劇場にいた。
 円形の舞台では星谷が青空の下、かつて鳳が雨音のリズムで踊ったあのダンスを披露していて、最後のポーズを最高の笑顔で決めた。
「先輩、どうでした?」
 息を弾ませ訊いてくる。
「いいんじゃない?」
「ええーっ! もっと具体的に指導してくださいよーっ!」
「俺はもう指導者じゃないって」
 鳳が笑うと、隣に座っていた那雪が小首を傾げて顔の前に人差し指を立てた。
「星谷くん。鳳先輩にお手本を見せてもらおうよ」
「え!」
 らしくもなく素で驚く鳳の腕を、那雪が引っ張る。
「ケチケチすんなよ、野暮助」
「先輩に野暮助言うな、天花寺」
「俺らも見たいです。鳳先輩」
 後輩たちに背を押され舞台に上がらされた鳳は、これはこういう筋書きなのだと今更気づいた。
 みんなで遊びませんか!
 という星谷の誘いはこういう意味だったのか。
「いや、ちょっと待って。さすがにもうあのときの気持ちでは踊れないよ」
「じゃあ今の先輩のダンスを見せてください!」
 星谷のきらきらした瞳から逃れようと視線を逸らしても、ほかの四人も同じようにきらきらしている。
「わかったよ、ボーイズ。言っておくけど、星谷が見たっていうあの日のダンスとは別物だからね?」
 はいっ! と五人が声を揃える。
 教え子だったとき、彼らはこんなに素直だったろうか。

 自由の代償が誰にも理解されないことなら、されなくてもいい。
 そう思っていた自分はもういない。
 それなら今この五人の観客になにを伝えようか。
「さあ、ボーイズ! 一緒に踊ろうか!」
 その声を待っていたように、五人が舞台に駆け上がった。

 踊り疲れると、那雪の作ってきたサンドウィッチをみんなで食べた。
「ドレスコードで察していたけど、こんなに踊らされるとは思ってなかったよ」
「なに言ってるんですか。これ食べたら次は歌ですよ!」
 星谷のテンションは高い。
「そうなの?」
 天花寺が頷いた。
「俺たちは今日、鳳先輩と歌って踊る会、に参加してやってるんだ」
「いつの間にそんな会が」
「おわかりだと思いますが、星谷が言い出しっぺです」
「三年生になったら、みんな忙しくて集まれないかもしれないし」
「そうなるのかなあ。オレはMS組のみんなとも、ここでなんかやりたいんだけどなあ」
「始まったぞ。星谷の具体性のない思いつきが」
「え、なんで? やろうよ、なんか、楽しいこと」
「おまえはいっつもそれだな」
「星谷くんらしい」
「だな」
 馴染んだやりとりをする五人を、鳳は微笑んで見ていた。
 彼らと出会う前、鳳はこの学園が息苦しかった。
 選ばれた一部の生徒は優遇され、ほかの生徒は不平等な条件のまま最終ステージに挑み、入科が果たせなかったチームは仲間内で罵り合う。
 チーム鳳がミュージカル学科候補生となる以前、確かにこの学校はそういう場所だった。
「おまえたちさ」
 と鳳は五人に問いかけた。
「今更だけど、もし最終ステージで失格になっていたらどうするつもりだったの?」
 五人は思い出そうと宙を見て、それから四人が星谷を見た。
「えーと。オレたちは、あのときやるべきだと思ったことをやったので」
 星谷のあとを那雪が引き取った。
「もしミュージカル学科に入れてなかったら、卒業記念公演も二年の綾薙祭もパリでの出来事もなかったかもしれないけど」
「きっとこの野暮助が楽しいことを探して」天花寺。
「ミュージカルへの道を見つけて」月皇。
「二年の春休み、俺たちは鳳先輩とここで遊んでいると思います」空閑。
 五人は声を揃えて言った。
「だから大丈夫!」
 星谷は舞台に上がった。
「もしかしたらここで、鳳先輩の卒業セレモニーのパフォーマンスをしていたかもしれない」
 こんな感じに!
 星谷が歌い出すと、ほかの四人も舞台に集う。
「あらら。歌の部が始まっちゃった?」
 五人の手が鳳に向かって差し出された。
「先輩も一緒に!」
 鳳も手を伸ばした。

team鳳, スタミュ

Posted by ありす南水