先輩の紐
「これ、鳳先輩の紐だ」
天花寺が実家から寮に持ち帰った「高級菓子」をラッピングしていた赤い紐を、じっと見ていた星谷が言った。
「鳳先輩の紐?」
天花寺が首を傾げる。
「鳳先輩が髪をくくってた紐」
ほんとだ、似てるね。と那雪も頷いた。
「似ているだけじゃないのか?」
と月皇が言うので、星谷は両手に持ってさらに確かめた。
「長さも同じだ、と思う。卒業記念公演のあともらったから部屋にある」
ちょっと待ってて。
と、自分の部屋から束ねた赤い紐を持って、月皇と空閑の部屋に戻ってきた。
星谷が持ってきたほうはやや使用感があったが、なるほど、ふたつは同じものだった。
「髪が伸びて邪魔だと思ったときに、近くにあったんだろうな」
空閑が言う。
「でも鳳先輩が使ってたら、どこかのブランドのものかと思っちゃうよね」
那雪が笑った。
「いや、待て。おまえら。あの先輩がリボンを買いに行ってる姿を想像してみろ」
天花寺に言われて、全員思い浮かべた。
それは百均であったり。
ショッピングセンターのアクセサリー売り場であったり。
デパートであったり。
ブランドの路面店であったり。
四人はそれぞれ苦笑した。
「ありのようななしのような」那雪。
「お高めの菓子の紐が一番あの人らしい」月皇。
「だな」空閑。
天花寺がまだ包みを開けていなかった菓子を星谷に渡した。
「今度先輩に会うときにこれ渡せ。紐の正体見たりってな」
「案外覚えてないかもしれないぞ。その菓子のこと」
空閑に月皇も同意した。
「俺もそんな気がするな」
「どうだろうね。星谷くん、先輩の反応を教えてね」
星谷はにこにこ笑いながら菓子の箱にきれいに再び紐を巻きつけると、自分の持っていたほうの紐と一緒に大事そうに胸に抱えた。