サイン   

三艦の総指揮を執るバルトフェルドから、MSの発進命令が出る。
私はしばし躊躇する。

会っておかなくていいの…?

私の中の女がそう囁くが、艦長である私が足を動かさない。
「艦長、少しならこちらは大丈夫ですよ」
ノイマンがいつもの口調でそう言った。
ブリッジを見渡すと、ほかのクルーも軽く頷いている。
「ごめんなさい、ちょっとだけ」
駆ける姿に艦長の威厳などあったものではないが、構わない。
これは私の最後の恋なのだから。

ストライクはまだ待機していた。
私は襟のフックをはずし、ファスナーをほんの少し下げた。
アンダーの下に隠してあるロケットを僅かに引き上げれば、
自然と上に浮き上がってくる。
心を決めてキャットウォークを飛び出すと、整備のメカニックと擦れ違う。
場を外してくれたのだろう。
皆が優しくしてくれて、本当は泣いてしまいたいくらいだ。
ストライクのハッチが開いて、ムウが出てきてくれた。
私を見て嬉しそうに笑ってくれる。
職場放棄してきて、怒られても仕方ないのに。

愛しい人。
優しい人。
私の未来のすべてになった人。

「間に合わないかと思った」
彼は軽く返してくれるが、体中からぴりぴりするほどの殺気を発している。
そして私の出したサインに気づく。

戻ってくるよ。君の元へ。

その言葉が欲しかったの。
そしたら私はずうっとあなたを待てるから。
私からは言わない。あなたを縛ることになるから。

再び閉じるハッチを見ながら、ロケットを握り締める。

ねえ、またパイロットを好きになっちゃったわ。
馬鹿でしょう。一度あんなに悲しい想いをしたのに。
でも後悔はしないの。そう決めたの。

だって私はこんなにムウを愛しているのだもの。
失うからといって、得ることを諦めるなんてできなかったんだもの。
モドル