祝福
三艦のモビルスーツに発進命令が出る。 「ごめんなさい、ちょっとだけ」 艦長が席を立ったのは、その直後だ。 どこに行くのかは皆わかっている。 「あ、モニターできたぞ!」 トノムラが叫ぶ。 「なに、できたか!」「どれ、どんな様子だ!」 チャンドラやパルが一斉にトノムラの調整する小さなモニター画面を覗く。 「おい、押すなって、見えないよ」 「ちょっと遠すぎないか?」 騒ぐ大人たちにサイはきょとんとして、ミリアリアを見る。 「格納庫には監視カメラがあるんですって」 ミリアリアが教えてくれる。 「それで?」 「それで格納庫の監視カメラを使って、艦長と少佐の様子をモニターするんですって」 「はあ?」 「よしっ! メインパネルに映像を切り替えるぞ。それならはっきり見える!」 トノムラの決断に、皆が賛同する。 ブリッジ最前列の一番大きなパネルにぱっと映る格納庫の映像。 ちょうどストライクの真正面だ。 「あ、艦長だ!」 「コクピットが開いたぞ! おい、もっとズーム大きくしろ!」 「なにか話してるぞ、聞こえないのか!」 「無茶言うな。向こうの音は拾えないんだ。こっちからなら呼びかけられるけどな」 そのとき誰かの肘がロックしていないボタンのひとつに触れた。 それは艦の全モニターのスイッチ。 各自持ち場に就いていたクルーは、それぞれ一番近いモニターに流れ出した映像を、 思わず食い入るように見つめた。 「あーーーーっ!! キスしたーーーーっ!!!」 ブリッジで叫んだのはパルだが、アークエンジェル中あちこちから、同じような叫び声が響いた。 既に一度目撃したことのある三人も、なんとなく赤くなる。 サイとミリアリアに至っては口をぽかんと開けて呆然としている。 格納庫のど真ん中で、ふたりはしっかり唇を重ねたまま。 年齢、背丈、ルックス、社会的立場、なにをとってもお似合いのふたり。 まるで無声映画の一場面のようだ。 「あーあ、くそう、やっぱこのふたりは本物かあ」 トノムラの呟きを聞いて、それまで黙っていたノイマンが徐に立ち上がり、音声スイッチをオンにした。 「いよっ! おふたりさん!」 全艦に響き渡る。 「結婚式には呼んでくださいよ! アークエンジェルクルー一同祝福いたしますからね!」 ノイマンのめったに聞けない大声に呼応して、艦内から「おおーっ!」と歓声が上がる。 一瞬唖然としたブリッジクルーだが、すぐにモニターに目を奪われる。 「あーっ、マードック曹長も冷やかしてる! いいなあ、メカニック達は本物を見てたんだよなあ!」 「あ、艦長真っ赤になってる!」 「いや、待て、少佐まで赤くなってないか?」 「ほんとだ! あの少佐が!」 「少佐ー! この幸せ者ー!! 艦長泣かせたら承知しませんよー!!」 「艦長ー! 少佐が嫌になったら、いつでも俺達に相談してくださいねー!」 全クルーの温かい(?)祝福を受け、恥ずかしさに消え入りそうな艦長は、 少佐の後ろに隠れようとしている。 音はないが、少佐はばかやろうと叫ぶと艦長の腰を抱え、 今度は皆に見せ付ける気充分のキスをした。モドル