道標
なにが起こっているのか、理解できない。 ドミニオンから放たれたローエングリンをストライクが受け止め、 そして確かに何秒かそのままの姿勢を維持したあと、私の目の前で消え去った。 そのあと私はドミニオンを撃つように命令した。 ドミニオンは沈んだ。 おそらくナタルを乗せたまま。 あの救命艇に彼女は乗っていないだろう。 ナタル・バジルールはそういう人だ。 クルーが次々と状況を報告する。 誰に? そう、私に。 私は艦長だから。 でも耳を素通りしていく。 残骸だらけの空間から視線を外すことができない。 「艦長!」 誰かに呼ばれている。 答えなければ、と思うけれど、そう思う意識さえ遠い。 「艦長、しっかりしてください!」 体を揺さぶっているのはトノムラだ。 …しっかりしなくては、戦いはまだ続いているのだから。 「艦長!?」 女の子の声。 …ミリアリア。 「どうしたらいいんだ! ノイマン、おまえが命令を!」 「操縦しながらは無理だ!クサナギかエターナルに連絡を!」 「どちらとも連絡つきませんっ!」 「艦長、お願いです! 我々はどうしたらいいんです!」 沈んでしまえばいい… そう思うのと同時に、強い否定が体の奥から込み上げた。 アークエンジェルが沈んだら、ストライクが帰ってくるところがなくなる。 彼は戻ってくると言ったのだ。 私は待っていなければならない… 「…クサナギとエターナルを探して。 キラくん達の状況は…?」 私を支えていた体が大きく震えた。 トノムラが驚いた顔で私を見ている。 「艦長!」 「…それから艦の被害状況を報告して」 ゆっくりとトノムラの腕を振り払う。 艦長席に座り直しながら、ブリッジを見渡す。 皆動揺して、ジョシュアで見捨てられたときよりも、もっと心許ない顔をしている。 どうしたの。 私達ほどいくつもの戦いを切り抜けてきた者はいない。 それなのに、どうしてそんな顔をしているの。 ストライクが連絡を絶ち、ドミニオンが沈み、艦長が職を放棄しかけたから? 私は深く息を吸った。 泣いてる場合じゃない。 「艦長、クサナギと連絡取れましたっ!」 「位置を確認して合流を」 力はないが、声は出る。 「なにしてるの? 各自持ち場について」 腰を浮かせていたクルーが、それぞれの場所に戻る。 混乱していたブリッジの空気が少しずつほぐれていく。 私のような艦長でも、いなくなればこれだけ浮き足立つのだ。 たとえ惰性ででも命令を続けなければ。 「クサナギの位置確認!」 「フリーダム、位置確認できました!」 戻ってくるって言ったわよね、ムウ。 ここに心を残しておくわ。 あなたが帰り道に迷わないように。 私は姿勢を直した。 「アークエンジェル、可能な限りの最大速度でクサナギに合流します!」モドル