コーヒー
少年の家にはいつもコーヒーがある。
一ヶ月に一回、箱に入ったのがどこからか届けられる。
少年が覚えている限り、欠かすことなく。
買っているのではない。
両親の友達が送ってくれるのだ。
母親に「なんで?」と聞いてみたところ、「コーヒーが趣味なのよ」とよくわからない答えが返ってきた。
少年と両親は、少年が幼稚園に上がる前にこのプラントに越してきたので、それ以前の知り合いは近くにはいない。
なので、少年はその人に会ったことはない。
でも声を聞いたことはある。
少年が今よりもっと小さかった頃、電話に出るのが大好きな時期があって、呼び出し音がなると母より先に飛び出して行って、受話器を掴んだ。
「コーヒーのおじさん」はそれ以来、両親と話をしたあと、必ず少年とも話をする。
「よう、少年。コーヒーの味がわかるようになったか?」
おじさんはいつも少年に同じことを言う。
いつかコーヒーの味がわかるようになったら、おじさんはおじさんのいるところに少年を招待してくれるそうだ。
少年はおじさんがどこに住んでいるのかも知らないが、そのときは行ってもいいと、両親も約束してくれている。
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