うさぎさんとくまさん
「ねえねえ、うさぎさんとくまさんとどっちがすき?」 部屋に駆け込んできた子どもが、ベッドに頬杖して訊ねた。 子どもは唐突にわけのわからない質問をするものだと、経験で覚えてしまった男は問い返した。 「おまえはどちらが好きなのだ?」 「ぼく? ぼくはね、うさぎさんがすき」 「では私はもうひとつのほうだ」 「くまさんだね?」 ぱっと顔を輝かせた子どもは、踵を返して部屋を出て行って、階下に走りながら叫んだ。 「おかあさーん おじさんはくまさんがいいってー ぼくはうさぎさーん」 なんのことやら、と男はベッドの上で苦笑する。 しばらくして女と子どもが入ってきた。 女が手にしたトレーには、ゼリーの乗った皿がふたつ。 ひとつはオレンジ色でうさぎの形、もうひとつは緑色でくまの形。 「なるほど、これか」 苦笑する男に、子どもがくまを差し出した。 「はい。おじさんの」 子どもの分はともかく、男には普通の型で作ればよさそうなものだが、そこが女の女たる所以だ。 大きな屋敷で大事にされていたときでさえ、一人前扱いされていたから、 文字通り子ども騙しのこんなものは食べたことがない。 「食べさせてあげましょうか」 見透かしたように女は笑う。 この女も段々人が悪くなってきたと思いながら、男はその申し出を断った。モドル |