投げる



もう長いこと、ものを食べたいと思ったことはない。



「なぜ私が兄なのだ」
のろのろと匙を動かしながら、
膝の上のトレーに置かれたシチューから意識を逸らすために、私は話をする。
部屋を出て行こうとしていた女は、少しだけ瞳をきらめかせる。
これは面白がっている表情だ。
案の定、女はくすくす笑い出した。


「子どもの父親の父です、なんて言ったら、そっちのほうが大変なことになるわよ」


勘に触る。
だが女は気にしない。
それも覚えた。

「人はみんな思いたいことを思うのよ」
「あんなくだらないヤツらに」
「あなたは人のことが気になるのね」

反論しようとしたがうまく言葉が見つからず、忌々しいので食べるのを止める。


「あなたもビーフシチューのほうが好き?」


ひっくり返そうとすると、その前に皿を取り上げられた。
そしてまたトレーに戻される。

「嫌いなものでも食べるのが大人でしょ?」



ぶつけてやろうとトレーごと投げたが、かわされた。


モドル